MRI鑑定でここまで分かります
加藤俊徳医師のMRIレポートの実例 (「脳と障害児教育」から抜粋)
脳個性検査で、自分の脳個性を知りたい方は、脳の学校からお申込いただけます。
1.脳画像診断の例
2.新生児重症仮死の症例
3.交通外傷後遺症の症例
脳写真MRIから捉える教育
海馬回旋遅滞症(Hippocampal Infolding Retardation;HIR)とは
正常といわれたMRIの落とし穴
※個人情報保護のため、MRI画像を掲載することを差し控えさせていただきます。
詳細は「脳と障害児教育」をご参照ください。(写真も載っています)
1.脳画像診断の例
一人ひとりの顔が全部違うように、障害者一人一人の脳は全員違います。それを、見極めて、脳写真からリハビリテーションや脳教育の指示を出すことが最も効率のいい教育法だと考えます。
一例を示します。
脳画像を詳細に読んでみましょう。これは頭を床に対して水平に切ったもので、水平断像(A)といいます。
皮質は白く、白質線維は黒く描出されていますので、T2強調画像という撮影の仕方をしています。
まず、①の矢印のように前頭葉をみると、ひも状です。わずかにしか残っていません。しかし②の矢印、右の聴覚、音を聞いたりする場所は残っています。さらに下のほうを見ていきます。矢印③の示す黒いところは視覚野です。目から入った情報が、④のように視覚野に送られる線維のルートがあります。⑤のように左側の繊維は、とても細いこともわかります。さらに⑥のように反対の聴覚の領域も小さいです。しかし、①から⑥まで、残っているところは全部、彼は、必死で使っています。
次に、頭を床に対して垂直に切ったもので、冠状断像(B)をみます。
⑦海馬(記憶に関係があります)があります。化膿性髄膜炎後のB君のMRI画像をみると、ここに側頭葉の⑧聴覚、聞く場所があります。また、⑨の周辺かなり高次の機能、色々な言葉を理解したりする場所があります。
これを見ただけで、彼が、前頭葉をどの程度使っているのか、ということはわからないけれども、B君の聴覚野の皮質までは、情報が入っていることは分かります。
ですから、B君に対しては、聴覚的なアプローチは、可能であるといえます。たとえ、彼が今、耳が聞こえているかどうかは不明であっても、情報を入れるだけの価値は、充分にあるということです。また、左右の違いからも、より的確な情報の入り方を捉えることができます。
視覚野の働きは左右違います。(A)に示すように、この視覚野は、左脳のルートを使った(右視野からの)情報は入りにくいけれども、右脳から情報(左視野)は、入りやすいということがわかります。
こういった結果を受けて、どういう療育的な指示を出したらよいでしょうか?
B君は、右側の前方の画面が脳の中に入りやすいということがわかります。ですから、この子に話しかける時は、右から立たなければいけないということです。左から入ったら、視覚からの情報が入りにくいということです。
とても単純なことですが、これは、この子の脳を見極めた時に対応する非常に重要な情報です。MRIによる画像診断の情報によって、効率よく、聴覚の入力、それから、視覚の入力が、可能になるのです。
3.交通外傷後遺症の症例の紹介
この脳画像は左から水平断(A)、冠状断(B)のT2強調画像、矢状断(C)のFLAIR画像です。かなりひどく障害されています。脳は、ごくの部分しか残っていません「この人の耳は聞こえるわけない」ほとんどの人は、そう思うでしょう。
しかし、私には異なって見えます。彼は、間違いなく音を聞いてよく理解している。どの位理解しているかわからないけども、十分に聞こえていることが、ここの画像に写っています。
図38の右脳の側頭葉①、後頭葉の第一次視覚野②、大脳基底核④、頭頂葉③に及ぶ広汎な脳障害であることは間違いありません。病変の分布から、生後でなく数歳のときの破壊性病変によって、この脳損傷が起きたこともわかります。
しかし、残っている脳領域をよくみれば、矢印で示すように左第一次聴覚野⑤とその周囲の第二次聴覚野⑥は、普通の大きさよりも、もっと大きくなっています。ここの部分だけ、なぜこんなに大きくなる必要があったかと言うことが重要です。
つまり、彼はこれを使っているのです。だから大きくなったのでしょう。
彼は、運動野の障害が強いので、自分から働きかけはできません。ですが彼の脳は、ちゃんと音を解析的に聞いているのです。そういった重要なことがこの画像でわかります。左の前頭前野⑦も頭頂葉⑧も、海馬⑩も残っているので、ワーキングメモリーの働きを引き出すことができるかも知れません。実際にこの子は、食事を口から取っており、摂食行動を本人の意思の表出と考えることもできます。
(「脳と障害児教育より」)2.新生児重症仮死の症例の紹介
「あなたと話したい」という番組の制作につきあうのは大変でしたが、取材を通じて、教育によって脳が改善したいろいろな症例が出てきました。
そうした中で、脳の障害のされ方が全ての症例同じだった人たちがいました。それは、新生児の重症仮死といわれる人たちです。彼らは今まで間違って解釈され、このような脳をもった障害児は、最近まで適切な教育環境を受けることなく生きてきました。今も教育的な環境におかれていない方がいらっしゃるかもしれません。
脳画像から判断する限り、②④の第一次運動野その近傍の白質をほとんど障害されているために、彼らの身体はほとんど動かず、③の口の領域まで障害がきています。しかし彼らはイエス・ノーぐらいのコミュニケーションはとれるようになる可能性があり、それ以上にコミュニケーション機能は高まっていくかもしれません。
この番組の取材で何が分かったことは、脳にダメージを受けた子でも、ブロードマン9番、10番の神経繊維が黒くずっと伸びているという事実です。⑥のウエルニッケ野や⑩のブローカ野など言語野は、障害されていません。ワーキングメモリー(作業記憶)に関係すると考えられる⑨の頭頂葉、⑪の前頭前野のブロードマン46番にも、白質線維が伸びています。高次の記憶に関係素すると考えられている下側頭回⑦も発達しています。このような発達は、不思議でたまらないのですが、事実です。
たしかに海馬⑤がちょっと白くなり萎縮していたり、視床⑧は白くなっています。図37のこの人達の親は、生後すぐの診断で、新生児医療の方々に「おそらく何もできませんよ」など非常に厳しいことを言われているでしょう。彼らは、そういった医療関係者のことばだけで、「もう何もできない」というレッテルを貼られて、適切な教育を受ける環境が半減してしまったことでしょう。
ところがこの画像をみて、私はこの前頭葉の運動野②④や視床⑧ 、一部の海馬⑤以外は脳の形は残っている、と思うわけです。「運動系が障害されると脳は働かないか」という、非常に脳科学としては重要な問題だったのですが、実は働くのです。たとえ海馬が少し障害されていたとしても、です。
つまり、残っているところ脳部位同士が結びつけば、コミュニケーションがとれると言うこと、これが今まで全くわかっていなかったのです。
このタイプの重症児(者)は、新生児期の脳画像によっても早期に、残存機能が推定でき、教育支援法を工夫することができます。しかし、臨床症状を見ると新生児科医は、重度であることを宣告し、残存機能に目を向けてその教育的予後と手段を示さないことがほとんどであったと思います。トーキングエイドなど教育によって発達が顕著な例は、運動障害が強くて、外見上でから、強い脳機能サインを推測しにくい場合が多いと思います。
障害児(者)は見かけによらないことを十分に理解する必要があります。