1.自閉症・軽度発達障害を説明するIC理論とは?
海馬回旋遅滞症(Hippocampal Infolding Retardation;HIR)

 「自閉症」と「軽度発達障害障害」、この2つの障害には、違ったものが同居しているのです。「知的障害」と「コミュニケーション障害」です。この2つの度合いが、大きくなったり、小さくなったりします。すなわち、「知的障害:Intellectual problem」と「コミュニケーション障害:Comunication problem」がどうして同じ患者さんに同時に発現するか、の解明が必要です。これを説明するのが、IC理論です。海馬において、IとCの問題が同居しています。

 この「知的障害」「コミュニケーション障害」となるものが、同時に発現し、しかし、知的障害とコミュニケーション障害の度合いが異なるということは、この病巣が異なるものであり、かつ近くにあるというものでなければ説明がつきません。この2つを同時に説明する場所は、おそらく大脳皮質の中ではなく、長い扁桃体から海馬につながる辺縁系のところに非常に特異な病巣があることが分かってきました。知的障害を説明しかつ自閉性を説明できる領域が脳の中にあるかも知れないと考えると、それが、海馬とその周辺領域であったということです。

 さらに詳細に調べたところ、海馬の回旋には3つの型にわかれることが分かりました。それを示したものが下図です。それが分かると後は簡単でした。高次脳機能が成熟していない時期に、高次脳機能障害を判定する困難さを補助する役割として脳画像は重要な役割をもちます。今では、脳のMRIを利用して、左右の海馬の回旋角も具体的に計測することができるようになっています。

 海馬を含んだ辺縁系は、前後に長く、海馬回旋遅滞症には、部分型と全般型が認められました。部分型は、扁桃体嗅内皮質周辺限局型と海馬周辺限局型で、全般型は扁桃体嗅内皮質未熟型と海馬周辺限局型を併せ持つタイプです。

 発達過程にある小児期では、記憶力や言語能力などの遅延をできるだけ早期に診断し、適切な教育学習プログラムにのせる事が重要です。しかし、臨床心理発達検査以外の高次脳機能発達障害を確定させる検査所見は、乏しいのです。10年以上にわたる形態的MRIの詳細な検討により、心理検査では評価できない脳の形態的発達段階の評価が可能となり、海馬の発達障害からその臨床症状の特徴を見出すことに成功したのです。しかし、海馬回旋が、どのような機序で誘導され、異常例ではなぜ回旋形成が停止するのかなど今後の課題もでてきました。

2.正常といわれたMRIの落とし穴

 扁桃体とその周辺の嗅内皮質について説明すると、扁桃体の周囲の発達が遅れると、ほとんどコミュニケーション障害をおこします。特に自閉的な傾向が出現します。海馬の発達が悪いと知的障害が起きます。海馬とは、短期記憶に関するところといわれています。ほとんどの人が「海馬の発達の悪さが知的障害をおこす」ということを理解していませんでした。普通はこの2つ、「海馬」と「扁桃体」の二つの発達障害が混在しており、この「扁桃体-海馬型」がほとんどだったわけです。ただ、扁桃体と海馬の障害が混在するために、臨床症状が分からなかったのです。しかし、脳画像を読めばそれさえも読みとれます。だから、この辺りは、言い過ぎると問題となりますが、1、2才程度の子どもでも、その後、障害をもつことになる可能性は読み取ることができるのです。

 ただ、そういう人でも改善する可能性は十分にあります。その可能性については、今はよく分かります。というのは、「海馬」や「扁桃体」を含む側頭葉がずっと発達しますから、海馬周辺の発達が悪くても、ネットワーク自体を刺激することはできるといえます。ですから、自閉症や知的障害、コミュニケーション障害は、ある意味では、改善の可能性があるといえるのです。

 最終段階で最も解明が難しいと思うことは、扁桃体を直接刺激して発達させるにはどうしたらいいか、ということです。側頭葉は、先程言ったように教育によって非常に発達してくるためイメージが沸くのですが、扁桃体はどうなのでしょうか?これについては今後の研究を待たなくてはなりません。

 私はこういった症例について、総合的に「海馬回旋遅滞症」という名前をつけました。これまでは、ほとんどこれは、病変とはみられませんでした。「あなたの息子さんは脳の病変がないのに、どうしてこんななんでしょうね」ということが非常に多くありました。

 何故このような見落としがあったのでしょうか。その答えは簡単です。下図をみて下さい。画像を3方向で撮ります。この海馬の病変はこの撮り方(角度や位置)ではっきり見えます。私が診たところ、下図に示したように、矢印の①の部分も異常で、矢印の③の部分も異常ですが、今までは全部見落としていました。とはいっても、病気の概念そのものが、私が勝手に作ってるだけなのですから、ほかの人が重要視しなかったのも事実です。通常MRIは3方向撮像することができますが、ルーチンに3方向とるわけではありません。特に冠状断像は、海馬の病気を疑わないと詳細に撮像することがありません。海馬回旋遅滞症は②の冠状断像でもっとも診断しやすくなります。海馬のMRIを撮影するのは、主にてんかんやけいれんを起こした場合です。ところが、海馬回旋遅滞症でてんかんを合併するのは10%前後に過ぎません。

 これは落とし穴であり、私も今まで分からなかったのですが、ようやく気づいてきました。ですから、世界中の脳の自閉症に関する論文をみても、全部合わないのです。脳の構造異常が、全く異なった症例同士を集めていたことになっていたからです。

この画像は、個人情報保護のため、画質を荒くして掲載しています。ご了承ください。この詳細は、著作「脳と障害児教育」にありますので、ご興味がある方はそちらをご参照ください。

脳から考える
自閉症・知的障害・軽度発達障害

1.自閉症・軽度発達障害を説明するIC理論とは?~海馬回旋遅滞症~論文PDF
2.正常といわれたMRIの落とし穴

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加藤俊徳の「海馬回旋遅滞症」論文はこちらPDFからご覧いただけます。

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